敷地周辺は、近年10階程度のマンションがちらほらするようになってきたものの,まだまだ木造住宅も数多く残る下町の住まい.最近廃業された家業が佃煮製造で,加工場があったために都心部としては敷地が大きく,最初はマンションでも建てられるのかなと考えたくらい.ところがお話を聞いてみると純然たる二世帯住宅で,それ以外は考えていないとのこと.ちょっと拍子抜けしたあとで,かえって緊張感が高まったのを覚えています.
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「大きな要望としてはエレベーターくらいで,あとはほぼまかせていただき,まず頭にうかんだのは「現代の町家」という言葉でした.恵まれた敷地を与えられて,現代における都市の住まいの理想型,その一つの例を作ってみたいと考えたのです.
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最初に手がかりにしたのはやはり,大学時代を過ごした京都など関西の伝統的町家の住まい.中庭を介して二世帯が並び建つコートハウスの構成は最初から頭にあり,南の光を呼び込むために南側主屋の一部を削ってルーフテラスとしました.ニューヨークのペントハウスの例を引くまでもなく,屋上は都市のオアシス.思い切って居間や台所を3階にもってくることができたのはエレベーターのおかげだとしても,ルーフテラスもあるこの3階がこの家の1階なのだと認識するようになったのは新鮮な発見でした.
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1階の和室はこうなるといわば地下2階ですが,目の前に細い街路があって通行人との関係が昔からの課題.考えたあげくに伝統的な格子を捨てて壁にガラスブロックをはめこみ,通風には低い横長の開口部をとりました.床脇の壁には,家業で使われていた竹の煮上ザルを記念に埋め込んであります.
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2階は中庭の周囲を廊下が廻り,主寝室や書斎は日中,天井一杯の引戸で開け放つことができます.いわば和室の広縁ですが,最初の頃に夫人から,近年亡くなられた寝たきりのお祖父様の世話の苦労話をうかがい,その夫妻ご自身がもはや高齢の境ということで,実は設計の最も早い段階で濃密に展開されたイメージは,このあたりの部屋と中庭の情景でした.
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竣工間際になってその中に,植栽の山中三方園が本当に見事なヤマボウシを据えてくれました.単なる中庭が深々とした奥行きのある空間に見違えて,この家をこれから流れていく時間を,大きく華麗なこの樹が統べていくのだと思いました.都市の喧騒など、はるか遠くに追いやって.
photo:福澤昭嘉
現場所在地 | 大阪市天王寺区 |
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構造 | RC壁式構造+鉄骨造 |
階数 | 地上3階 |
工務店 | 大橋組 |
家族構成 | 親夫婦+息子夫婦 |
敷地面積 | 229.5 m2 |
延床面積 | 338.0 m2 |
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