熟成のマテリアル、木材。

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皇居のお堀のほど近くに、英国カントリー調で設えた、小さな事務所がありました。
事務所の床は無垢のパイン材が採用され、室内に樹木の香りが漂います。
客人は、サーブされた熱々のコーヒーをひと口すすると、ほっと一息、森のカフェの居心地で、
仕事を忘れ、名刺交換を忘れます。
床板は、コピー機の重圧や、棚のぐらつき、スタッフの偏平足を、日々優しく受け入れます。
事務所設立から約三年。コピー機が増え、棚が増え、偏平足が増えました。
経営者のS氏は、事務所移転を決意します。
移転当日、荷物が運び出された空っぽの室内に、濃く強く、樹木の香りが漂います。
樹木の香りを吸い込みながら、床板に刻まれた、傷や凹みをジッと見つめるS氏。
翌日、空っぽの室内に、床板を剥がすS氏の姿がありました。
数年後、S氏は、海辺の保養所を借り、保養所の室内に、飴色の床板を敷き詰めます。
皇居のお堀のほど近くで、日々、扁平足の足音を聞いていた床板は、いま、波の音を聴いています。

紙障子と美しいフォルムの梁。

繊細で幾何学的な組子の紙障子と、自由に曲がり豪壮に組まれた小屋組みの対比。

梁ひとつひとつの美しいフォルムが、紙障子から降り注ぐ自然光によって、より一層、効果的に浮かび上がっています。

圧倒的な迫力。突き抜ける大木。

コンクリート基礎からロフトを抜けて、棟梁まで突き抜ける丸太。

丸太が家の芯となっていることから、昨今の地震でもあまり揺れないということで、その機能性はもちろん、迫力ある圧倒的存在がなんとも頼もしい。

ニヤトー(洋桜)の玄関ドア。

ニヤトー(洋桜)の玄関ドアと、切り文字の焼付塗装した表札、鉄を不整形にたたいた棒で制作したフェンス、アプローチの古レンガで構成された、シンプルで温かみのある玄関。

木の温もりというものは、シンプルさの中で燦然と輝くものなのだなぁと、こちらの事例を拝見して改めて実感しました。

機能的な木製格子戸。

視線や光、風を自由に制御できる、木製格子戸。

木の格子戸と陽光が織り成す幸福感。
この縁側に腰掛けたなら、幸福感に満たされて、一切のストレスが溶解していくような気がします。

オーナー自らクルミの油や柿渋を塗布。

再生利用の大黒柱。 旧家屋の解体前の木拾いで見つけた丈のある柱を、玄関の見せ場に配置。

柱に色つやを出し、長持ちさせるために、オーナー自ら、大黒柱にクルミ油を塗布して仕上げたそうです。
トイレ、洗面台、壁板の柿渋も、オーナー自らが塗布。
オーナーの、家屋に対する深い愛情が伝わる事例です。
大シケの翌朝、海岸を歩くと、様々な漂流物が浜に漂着しています。
ゴロンと転がるヤシの実、からまった投網、ガラスの浮き玉、そして流木。
ある日、漂着したまま放置されていた、三メートルほどの丸太と、約半分の長さの丸太と、切り株と、枝を伸ばした流木数本が、マルッとひとまとめにされていました。
1週間後、ひとまとめになっていた流木たちは、縦横に組み立てられ、何らかの意図を持ち始めます。
縦横に組み立てられて何らかの意図を持ち始めた流木たちが、さらに1週間後、ついにその輪郭を現しました。
それは、物言わぬ流木で作られた、物言わぬ恐竜でした。
大海原をじっと見つめる恐竜は、日々満潮を迎えるたびに、少しずつ崩れながら、やがて海に還っていきました。

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ライター/writer koagari